東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)237号 判決
事実及び理由
一 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取消すべき事由の存否について判断する。
成立に争いのない甲第三号証(昭和五五年一月一八日付手続補正書)によれば、本願考案は、不織布(研摩布)をスポンジ面に接着した清掃研摩用具において、「繊維が縦方向に配列した状態で繊維を直角方向に截断した不織布(研摩布)」を用いる構成とし、これによつて、「被研摩体の小さな凹面までも繊維が深く、研摩材が入り込み、表面は繊維が立つているため、ざるや摺鉢の隅々まで洗え、また、スポンジより剥離することがない。更に、繊維の間隔が押し潰されることがなく、研摩の際にでる残滓が繊維と繊維の間に入り込み閉塞されていわゆる目詰りを起し研摩力は低下しないで、長い間その性能が持続される。そして、各繊維が互いに引張り合わず弾力性に富んでいるために、繊維の切断及び研摩布の層間剥離が少ないので、研摩力が落ちない。」(三頁六行ないし一五行)という効果を奏するものと理解される。
一方、成立に争いのない甲第四号証(実公昭四八―二五三四四号実用新案公報)によれば、引用例は、名称を「タワシ」とする考案に係る実用新案公報であるところ、その考案の詳細な説明には、「本考案は、個々の繊維の切断端の大部分が表面に並び、全体としては、繊維が無作為に配列された平面状繊維フリースが合成ゴムあるいは合成樹脂等で接着された不織布と、合成ゴムあるいは合成樹脂製発泡スポンジとが、層状に接合一体化して成るタワシに関するものである。」(一欄二一行ないし二六行)、「第2図及び第3図にみられる如く、本考案のタワシは、不織布Aとスポンジ層Bとから構成され(別紙図面(二)参照)、不織布層Aは、……空隙4を残して、網状交絡組織に結合されており、かつ、少なくとも表面側においては、微細ブラシ状の研摩面を形成するよう、繊維の切断端3の大部分が表面に配置された構造を有している。」(二欄一七行ないし二五行)、「本考案においては、この表面が研ぎ作用の高い、しかも、被研摩物に掻傷を与えない研摩面を提供するのである。更に、ニードリングを施した不織布を割りすいたときには、繊維の切断端が表面に垂直に配置されるので、一層良好な磨き効果を得ることができる。」(三欄一三行ないし一七行)との記載の存することが認められる。したがつて、引用例のものと本願考案の「清掃研摩用具」とは、スポンジ面に不織布(研摩布)を接合一体化した基本的構成及びいずれも一層良好な磨き効果を得ようとする目的課題をもつ点で共通していることが明らかである。
そして、前記引用例の記載に即して、ニードリングを施した不織布を割りすいたときの繊維の配列を考えてみると、これが、ブラシ状に繊維の切断端が表面に垂直に配列されたものとなり、これによつて被研摩物の隅々まで清掃できる磨き効果の得られることが理解できるから、研摩布の部分を、ニードリングによることなく、本願考案の如く、はじめから「繊維が縦方向に配列した状態でその繊維の直角方向に截断した不織布(研摩布)」とすることは、引用例に示された本願考案と共通した前記の目的課題や前記引用例の記載から、当業者が極めて容易に想到しうるものとみるのが相当である。
この点、原告は、本願考案に係る清掃研摩用具が研摩布部分における「層間剥離」の生じないものであることを格別の効果として主張するが、右は、不織布(研摩布)の繊維が縦方向に配列されるようにスポンジに接着されることにより当然予想される効果であり、かつ、研摩布の繊維をブラシ状に配列することが引用例に記載されている以上、研摩布における層間剥離が起こらないことも、引用例の記載に照らし、格別顕著な効果とは認められない。
以上のとおりであるから、本願考案のようにすべく引用例記載の考案において、不織布としてその「繊維を直角方向に截断したもの」を使用することは、引用例記載のものの繊維の配列状態及びそれによりもたらされる効果を勘案することにより、当事者が極めて容易に考案をすることができたものであるとした審決の判断には、何ら誤りはない。
審決には、これを取消すべき違法の点はない。
三 よつて、審決の違法を理由に、その取消を求める原告の本訴請求を、失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五一年八月一九日、名称を「清掃研摩用具」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和五一年実用新案登録願第一一一〇八八号)をしたが、昭和五四年一〇月二二日拒絶査定を受けたので、同年一二月二一日、審判を請求し、昭和五四年審判第一六二〇七号事件として審理された結果、昭和五六年八月一〇日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は同年八月二六日原告に送達された。
2 本願考案の要旨
天然もしくは合成スポンジ1に不織布2を接着剤3によりスポンジ面に接着した清掃研摩用具において、前記不織布2は、繊維が縦方向に配列した状態で繊維を直角方向に截断したものを接着して成る清掃研摩用具(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
図面(一)
<省略>
図面(二)
<省略>